音楽と感情、かまってちゃんが憎い

 ゆらゆら帝国が解散して、バンドが解散するということと、自分の感情についてを少し考えたりした。ゆらゆら帝国は大好きだったけど、多分思い入れのようなものはなかった。だからわたしは、解散と聞いて、本当にまったく悲しく無かった。驚いたけど、それもすぐに納得に変わった。坂本慎太郎のメッセージを読んで、納得は不思議な感動に変わった。解散までをひとつの美しさで貫いたゆらゆら帝国というバンドの伝説、その終末の時代に立ち会えたことが嬉しかった。好きなバンドが解散しても悲しくないというのは不思議だ。
 昔、小学生か中学生の時、サザンの熱狂的なファンだった時、サザンのファンサイトを巡るのが好きだった。mixitwitterもblogもないあの頃、ファンサイトは同じ音楽を愛する人が存在を確かめ合う貴重な、わたしにとっては唯一の場所だった。そこでよく見ていた、とてもマニアックなサイトがあった。確か、どこが出典なのか解らないが、涙のアベニューの作詞メモとか載ってた覚えがある*1。そのサイトの人がどこかに、サザンは早く解散すべきだと思っている、というようなことを書いていて、ショックを受けた。当時は全く訳の解らない、理解を超えた記述でとても混乱したが、でも今なら解る気がする。その人が感じた気持ちと同じではないかもれないけど。好きというのは、それが永遠に在り続けることを望む気持ちと等しくはないのだ。美しい終わりを望むこともある。
 音楽を好きという気持ちは一筋縄ではいかないなぁと思うもうひとつが、神聖かまってちゃんというバンドの存在である。わたしは多分彼らが大嫌いだ。考えるだけでむかむかする。話題になってると目をそらしたくなる。でもなぜだか、last.fm)の最新7日間チャートを見ると、233再生でぶっちぎり1位で、最新3ヶ月間チャートでも、487再生でぶっちぎり1位だ。新譜「友達を殺してまで。」は7トラックで、デモCDは持ってるけどほとんど聴いてないので、大体新譜は70回近く聴いた計算になる。むかつくほど、彼らの音楽は大好きだ。言葉であらわせないくらい大好きだ。でも彼らの存在自体は嫌いというのを通り越して憎い。音楽以外のすべてが嫌いだ。なにがそんなに嫌いなんだと自分でも考えるのだが解らない。過去2回見たライブ(墨汁vol.1)が両方クソだったというのはきっと大きいのだと思うが、それでも説明がつかない憎しみが渦巻いている。
 かまってちゃんを見るときっと誰もが彼らについてひとこと言いたくなる。良かれ悪しかれ人の気持ちを逆撫でするなにかを彼らは持っている。過剰な感情はインターネットのそこかしこに吐き出される。そうやって彼らは話題になってきたように思うが、その流れを見ているとどうもperfumeを思い出す。彼女たちが脚光を浴び始めたころ、誰も彼もが彼女たちのことを語りたがった。テクノポップでアイドル。ボコーダーを使った人工的な声。音楽性だけでなく、ありとあらゆる所へ論議はおよんだ。多くの人に物語が作られ、また多くの人に意味が作られ、巨大な偶像が作り上げられていった。毎日のようにはてブの人気エントリにperfume論が並んだ。嫌な言い方になってしまうけど、perfumeもかまってちゃんも、その辺にいる市井のひとりが、論客になれてしまう格好のネタだったのだと思う。誰もがアウトプットできる場所をインターネットに持っている今の時代、なにか旋風を起こすにはそれが一番有効な手だてなんじゃなかろうか。一般人を如何に語りたくさせるか。昔はメディアの大声が時代を決めたのかも知れない。でも今は、小さな一般人のぴーちくぱーちくいう声が相乗的に広がって無数の風を生じさせ、それがひとつのうねりになる。かまってちゃんは時代の寵児だと思う。わたしも、憎い憎いと思いながら彼らについて口をつぐめない。perfumeは徹底無視を貫いたが*2、かまってちゃんはどこかにぶつけずにはおれないのだ。それが悔しいのかもしれない。だからこんなに憎いのか。
 彼らの基地外じみた(良い意味では決してない)パフォーマンス、動画配信というツール、それだけで終わるクソバンドだったら良かったのに、なぜだか彼らは物凄く良い音楽を作る。lastfmの3ヶ月チャート、「友達を殺してまで。」リリースからたかだか1ヶ月で思いっきり割り込んできた癖に、ミラーボールズエレファントカシマシも差し置いて、再生回数1位になってる。しかしその唯一素晴らしい音楽を全く大事にしない。わたしが過去2回見たライブもだが、この前のNHKの放送はなんだ?あれが桑田佳祐の真似だったとtwitterで見かけて、大人げないが結構真剣にむかついた。いっぺん烏帽子岩に刺さってこい。しかし好きという感情も憎いという感情もある程度まで強くなれば同じようなものなのかもしれない。わたしはもう彼らをなんと評して良いのか解らない。こんなに強い感情を抱きつつ、好きとも嫌いとも言い切れないバンドって今までにいただろうか。
 大阪でのリリースイベント、いいにおいのする友達を殺してまで。は、風邪をひいてしまい行けなかった。そこでは良いパフォーマンスをしたらしい。わたしは徹底して彼らにライブ運がないようだ。しかしそれでいいのかもしれない。これで滅茶苦茶良いライブを見せられた日にゃ混乱も極みに達するだろう。これから彼らはどうなるのか。早く解散すればいいのにと、少し思っている。いや少しじゃないかも。かまってちゃんが解散する日、わたしはやっと彼らをちゃんと好きになれる気がする。

*1:若かりしわたしはそれをいちいちtextで保存していたのだ。消えたけど。もう一度見たいがサイトまだあるのかな。

*2:というか本当に好きになれなかった。CDJで一回ライブ見たけどどん引きしてしまった。アイドル向いてないわ。